弁護士 普門大輔のふらっふBLOG

大阪市生活保護調査団報告(まとめ)

2014年8月21日 | カテゴリー:お知らせ

毎日暑い日が続きます。

先日8月11日、大阪市生活保護行政問題全国調査団の報告集会を行いました。

総括的なまとめとして整理したものをこのブログでもご報告させていただきます。

また11月を目指して、調査団の取り組みに関する記録を出版することになりました。また御案内させていただきます。

 

 

大阪市生活保護行政問題全国調査団報告

調査団事務局 弁護士 普 門 大 輔

 

1、はじめに

大阪市は、「改正」生活保護法施行以前より、生活保護制度に関する改革提言をおこない、大阪独自方式ともいうべき運用を押し進めてきた。

その結果、政令市において唯一、生活保護世帯数を減少させ、22年ぶりに生活保護費決算額もマイナスに転じさせている。

この結果は、福祉事務所の実施体制の実態と公務労働に従事する労働者の徹底した人事管理を背景に、①高齢者世帯以外に対する締め付けの強化、②主に、高齢者世帯に対する医療扶助・介護扶助の支給抑制、③扶養義務者に対する扶養義務の履行強化、といった運用によって導かれている。

「改正」生活保護法の施行を受け、全国の自治体に対し、大阪方式が波及するおそれが強く危惧され、生存権侵害の事例があとを絶たないことから個別対応ではなく、本年4月、大阪市生活保護行政問題全国調査団を結成し、調査活動を行った。

 

2、大阪市生活保護行政の問題点

(1)「申請時の助言ガイドライン」問題

大阪市は、2011(平成23)年1月17日、生活保護担当課長事務連絡「保護申請時における就労にかかる助言指導のガイドライン」(以下、「申請時の助言ガイドライン」という。)を発出した。

稼働能力があるとみなされた要保護者に「一週間に一度、求職活動状況報告書を提出すること」などを求める「助言指導書」を交付して、積極的な求職活動を行求め、努力が不十分とみなせば、14日の法定期間内の判断を延期し、最終的には申請を却下するというものである。

「助言」指導事項として「熱心に求職活動を行い、継続的かつ自立を目指した仕事に就くこと」や「一週間にハローワークへ三回以上行き、一社以上会社の面接を受けること」など、助言指導の域を超えた、具体的な就労指示が履行期限を付して要保護者に手交されており、「助言」に名を借りた違法・無効な「指導指示」を行い、法定期間を遵守せず、また保護却下している事例が確認されている。

また、稼働年齢層にある者の困窮相談において、「連絡票」、「相談受付票」などの独自書式による積極的申請権侵害や申請したくてもさせてもらえないという水際作戦が相変わらず維持されていることも確認された。

①の例であり、相談・申請段階、申請後開始決定待ち、保護利用中のいずれの稼働年齢層に対しても厳しい締め付けが行われている。

(2)介護扶助等の自弁強要問題

生活保護利用者が介護保険を利用して福祉用具の購入や住宅改修の際、介護扶助として支給すべき介護扶助費を支給せず、生活保護利用者に自己負担させた事例が、2013年4月から11月までの約8ヶ月間で、133件あることが判明した(自弁運用によって福祉用具購入を断念したケースは把握できない。)。

介護扶助に限らず、医療扶助についても医療券の申請者に対して、ケースワーカーが「口を開けてみ」、「市販薬を買うように」などと言って医療抑制が行われている事例も確認された。とりわけ、22年ぶりに24億円減少したと保護費決算額の内訳から、西成区の医療扶助費15億5千万もの減少計上が目立っており、単身高齢者の集住地域での医療状況に大きな変化が出ているものと推測される。

②の例で、且つ、介護扶助一部自弁運用は今度、介護一般や医療に拡大する危険がある。

(3)「仕送りのめやす」の策定、扶養照会の運用問題

大阪市は、2013(平成25)年11月8日、独自に、扶養義務者の年収に応じた仕送り額の目安(収入がゼロあるいは生活保護水準となっている義務者にも、金額帯を示す)を示す「生活保護受給者に対する仕送り額の『めやす』」(以下「めやす」という。)を策定している。

こうした「めやす」が運用に供されれば、「申請時の助言ガイドライン」の例から、実施機関が、福祉局の運用方針を墨守した扶養義務者への働きかけが行われ、「改正」法の権限強化と相まって、扶養履行が事実上強制される、あるいは、生活保護申請を断念せざるを得ないという生存権侵害が頻発する危険がある。

一方、「めやす」を運用に供していない、「改正」法施行前の時点ですでに、DV事案によって離婚、別居に至り、以降35年間にわたって音信不通であった保護申請者の子や、孫らに対して扶養照会がなされていた事案や、約40年間にわたって会ったことがなく、生死さえ不明となっていた弟の扶養照会が熊本で生活する高齢の兄に届くといった事案なども判明している。

稼働年齢層・高齢者世帯の別に限らず、保護費支出削減という目的に向け、保護利用者の全てに行われている③の例である。

(4)実施体制の問題と警察力への依存

ケースワーカー(現業員)の配置数は社会福祉法第16条に定める標準数(都市部で80対1)が定められているところ、平成25年度生活保護法施行事務監査において、査察指導員は11の実施機関において、いずれも標準数を充足していないことが指摘された。現業員の不足数は、西成区の145人をはじめとして全市で481人にのぼり、現業員の不足数は全国一となっている。大阪市は、平成22年度から23年度にかけて115人の増員を図ったが、なお恒常的に400人以上の不足数が生じて充足率は7割前後にとどまっており、不足数は増加傾向にある(大阪市は、平成16年よりケースワーカーを「一般担当」と「高齢担当」にわけ、平成23年4月時点では、一般担当(737名)は60対1、高齢担当(173名)は380対1とする独自の配置基準を採用している。高齢ケースには安否確認を担当する高齢嘱託(226名)を288対1で置き、ケースワーカーは事務処理に専心することとなっているが、若手がケースワークの経験を積めず、担当する生活保護利用者からは相談しても対応してくれないという苦情が絶えない。)。

また、社会福祉法第15条第6項において,現業員及び査察指導員は,社会福祉主事でなければならないと規定されているところ、大阪市における現業員の資格取得率は,近年の監査資料によると,高い実施機関で61.4%(淀川区・平成24年度),低い実施機関は28.9%(住吉区・平成21年度)であり,8区平均では51.6%にとどまり,全国平均と比べても著しい低さであった(全国的な社会福祉主事の資格取得率は,査察指導員においては74.6%,現業員においては74.2%となっている(「平成21年福祉事務所現況調査)」。

なお、大阪市においては,経験年数3年未満の経験の浅い職員が8区平均で61.9%を占めている(東成区と鶴見区では80%を超えている)。

さらに、大阪市においては,正規職員の配置を怠り,任期つきや嘱託職員を低賃金で一時的に雇用して,その場をしのぐことが長年続いている。特に任期(3年)付きケースワーカーを平成22年度に212名大量採用し,全ケースワーカーの4分の1近くを占めるに至っている。

2012(平成24)年4月から、警察官OBを加えて不正受給調査専任チームを全区に設置し、不正受給防止を強化した。福祉事務所のブース内に監視カメラを設置し、相談者が音声を録音することを禁じる張り紙をし、福祉の窓口が捜査機関化している状況にある。

大阪市において,現業員による様々な人権侵害事例が発生しているのは,慢性的な人員不足と、無資格者が多さ,かつ職員の経験年数が浅さと深く関係しており、上記①、②、③の問題運用の原因である。

実施体制の不備を任期つき職員や嘱託職員の付け焼刃的補充によって補い、また、そうした職員の専門性や経験の欠如を、本庁福祉局が策定して実施機関に下ろしている「申請時の助言ガイドライン」や「仕送りのめやす(扶養照会を含む)」を機械的に、一律的に運用させることで、生活保護利用世帯の減少や保護費支出の抑制が図られてきたもので、これが大阪市の保護行政の実態である。

 

3、まとめ

5月末の実施機関及び福祉局との交渉において、上記の調査結果を踏まえ、①生活保護法27条等に違反する「申請時の助言ガイドライン」、申請権を侵害する「連絡票」「相談受付票」の廃止すること。②医療・介護サービスの利用の際、生活保護利用者だけに安価なサービスの利用を求めたり、介護扶助や各種一時扶助等の給付を行わないなどのないよう徹底すること。また、介護扶助費を自己負担させた133件を含む問題事例については、全額さかのぼって保護費を支給すること。③扶養の強制につながる「めやす」の廃止と、扶養が期待できない者への扶養照会は厳に行わないよう徹底すること。④社会福祉主事の資格がない警察官OBの福祉事務所配置をやめること。同法78条の適用は「不正の意図」が認定できる事例に限定するよう徹底すること。各福祉事務所の相談ブース内の監視カメラ、録音禁止の張り紙の撤去 ⑤任期付きケースワーカーを正規雇用すること。社会福祉法が求める標準数(80対1)を充足するようケースワーカーと査察指導員を大量増員し、400人規模の恒常的な人員不足を解消すること。また、同法が求める社会福祉主事任用資格の取得率を100%にし、社会福祉士等の専門職採用を積極的に行い、福祉専門職としてのスキルを発揮できる人事政策に転換することなどを求める申し入れを行っている。

さらなる大阪市回答を受け、引き続き「改正」保護法施行下の行政に対する監視活動を行っていく所存である。

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